上越・ナルミズ沢〜沢登り紀行(7)〜


利根川は日本屈指の大河川です。

そして、その源流域は豪雪に守られ、原始の自然が多く残されています。

利根源流での沢登りは中上級であることがほとんどですが、珍しくナルミズ沢は初級、初心者が混ざっていても安心して遡行出来るという点で貴重です。

アプローチが長いので、本稿では2泊3日のゆとりある計画としました。

春は残雪、夏は刺す虫、晩秋からの冬型天気を避けて9月中旬の3連休か10月初旬の3連休に行くのが良いでしょう。

【アプローチ】

宝川温泉までは1日2本バスが運行しています。

  1. 上毛高原発10:16 水上行関越交通バスで水上着10:41 同発10:45 湯の小屋行バスで宝川温泉着11:15
  2. 上毛高原発13:05 水上行バスで水上着13:33 同発13:35 湯の小屋行バスで宝川温泉着14:08

宝川温泉から歩き始め、宝川左岸の林道を1時間、そこから登山道を1時間40分、宝川を右岸に渡って15分で広河原(ウツボギ沢出合い)に着きます。

長いほぼ平坦な道です。

広河原に着いたら適地をみつけてテントを張ります。

砂地で平な所は水面から1m以上高くても水が来た証拠、斜面の下で角のある石が転がっている所は上から落石が来た証拠なので避けて下さい。

今回はテント泊ですが、沢の中でキャンプする場合は、タープ(畳2~6枚程度の大きさの1枚の布)で屋根をかけ、その下で寝ることが多いです。囲われていないので増水した時に脱出が容易であることが最大の理由です。

他に、タープは床面が広いので凸凹な場所でも横になる場所がみつけやすく荷物置き場が広い、焚火の管理がしやすい、などの理由があります。

キャンプの準備が出来て、夕方まで時間がある場合はウツボギ沢(白毛門と笠ケ岳の鞍部に向かう沢)と北丸山沢(白毛門と丸山の鞍部に向かう沢)の入り口あたりまで行って来ましょう。

登山情報誌や沢登りのガイドブックでやさしい1泊の沢として紹介されることが多い東黒沢からウツボギ沢をつなぐルート(お勧めです)の偵察です。

【遡行】

2日目朝、身支度を整え余分な荷物をテントに置いて、出発します。

宝川沿い朝日岳に向かう登山道をウツボギ沢出合いまで歩きそこから宝川の沢床に降り立ちます。

実はナルミズ沢は宝川の本谷の別名なのです。

右がナルミズ沢、左はウツボギ沢

広い河原を20分も行くと両岸が迫ってきて、すぐにナルミズ沢で一番の難所となります。

小滝、滑、大きな淵、釜、滑滝と連続して続きます。ロープを出すほどではありませんが慎重に通過して下さい。

入渓して20分、小滝と釜が連続する。

傾斜の緩い釜を持った小滝

すぐに両岸の傾斜が緩くなり太陽の光がたくさん入って、流れる豊かな水のエメラルドと沢床のベージュとのコントラストが素敵です。

1時間弱で、左から3mの滝をかけて大石沢が合流して来ます。

大石沢を20分も登れば、朝日岳への登山道に出られます。

ここより先でエスケープする場合は半日の藪コギになってしまいますので、続行か否かを慎重に判断して下さい。

この地域は日本海側の気候帯に属し、全般に天気が良くない日の方が多いからです。

大石沢を過ぎても小滝と釜と滑の歩きが続きます。

水の深さによって釜の色が変わります。

大石沢を過ぎて、若干水量は減りますが、まだまだ小滝と釜と滑の歩きが続きます。

両岸がせまって深い流れになった所を泳いで突破すると高さが8mほどの魚止めの滝です。

この滝はこの沢で最大、でも、ホールドが豊富で傾斜が緩く右から簡単に登れます。

8mの滝は右から超える

沢の雰囲気や色が変わった感じがして来て、大烏帽子山の岸壁が見えてきます。

まわりの樹木が減り草原になって来きます。

冬、日本海に入る暖流の対馬海流の上を、しかも日本海の最も幅広い所を、シベリアからの極寒の季節風が渡って来て、利根川源流の山々に当たり雪を降らせます。

南北に細い日本列島ですが、関東から新潟にかけてのあたりは最も東西に膨れていて、雪の受け皿となる積雪地帯の面積が広いです。

偶然とも言えるこのシステムは降らせる年間の降雪量を世界一に押し上げます。

その世界一は人間の営みの侵入を防ぎ、大きな樹木の生息域には蜜藪(ジャングル)を作ります。

風強い山頂付近は、樹木の生長を許さず草原を形成します。

海外の高峰登山に価値の目を向けがちな私たちですが、登山道を使えば首都圏から日帰り出来るほど身近な谷川連峰朝日岳の東面の山裾に世界屈指の光景が広がっていると知っていたいです。

前方に大烏帽子山が見えて来る。

次第に水流が減り源頭が近づく。

ウツボキ沢出合いから5時間ほどで、源頭、そこから大草原となります。

尾根っぽい地形の所には這松が群落を作っています。

ここで、キャンプして翌日に下山するパーティが多くあるようですが、横に寝ると草の上をずるずると滑るぐらいの傾斜で平なキャンプ地は見つけにくいです(たぶん無い)。

また、1700mの標高地点で夜は寒く、泊まるには豊富な防寒具が必要です。
沢型(草原のわずかな窪地)をたどること40分で大烏帽子山と朝日岳を結ぶ稜線に到着、遡行終了です。

草原でキャンプする沢登りグループに遭遇

 

【下山ルート】

踏み跡程度の巻機山からの登山道を行き、清水峠から朝日岳に向かうりっぱな登山道に出て一安心、そこから60分で朝日岳山頂に到着します。

朝日岳から東に広河原へ向かう登山道をとらえて、下ること2時間30分で出発点の広河原に戻ります。

踏み跡みたいな巻機山からの登山道

広河原でテント2泊目、翌日は宝川温泉まで戻るだけなので、河原で焚火してキャンプを楽しむと良いでしょう。

雨で流木が濡れている場合は立ち枯れの木を薪とします。

水の流れの方向に平行に揃えて薪を置くのが焚火成功の秘訣です。

河原の石で焚火をかまど状に囲い熱が逃げないようにしてチョロチョロと小さく燃やしましょう(薪の量は最小限に)。

3日目は宝川温泉発9時42分か14時53分のバス時間に合わせて出発します。

後の方の時間なら超ビッグな露天風呂がある宝川温泉に入浴してもいいかもです。

著者:松浦寿治

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