◇元越山(もとごえやま)(大分・佐伯市=582メートル)
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大分・元越山
◎国木田独歩の愛した山 「国内ベスト4」の眺望
明治の文豪、国木田独歩(くにきだ・どっぽ)は1893(明治26)年10月より翌年まで、私学の鶴谷学館の教師として佐伯に滞在した。独歩は、下宿の裏手にある城山を愛し、何度も登ったといわれる。
この下宿の窓より、元越山を眺めては、いつかは登りたいと思っていたという。
独歩は、93年11月5日に元越山に登り、「欺(あざむ)かざるの記」には「吾窓よりの眺めの余りに美しさに堪え兼ね、昨日遂(つい)に此山に登りぬ」と記した。また翌年4月にも、登っている。
現在、山頂には、彼の「元越山に登るの記」の一節を刻んだ記念石碑が建てられている。
それを紹介しよう。
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山頂にある国木田独歩の一節を刻んだ石碑。先に日豊海岸国定公園のリアス式海岸
「元越山山巓(さんてん)に達したる時は、四囲の光景余りに美に、余りに大に、余りに全きがため、感激して涙下らんとしぬ。
ただ、名状し難き鼓動の心底に激せるを見るなり。
太平洋は東にひらき、北に四国地手にとるがごとく近く現われ、西および南はただ見る山の背に山起り、山の頂に山立ち、波のごとく潮(うしお)のごとく、その壮観無類なり。
最後の煙山(えんさん)ついに天外の雲に入るがごときに至りては…」
独歩が眺望の美しさに涙を流したという山頂には1等三角点が設置されている。
地図を作る国土地理院の調査員が、元越山の眺望は国内にある三角点のベスト4に入る、とたたえたとも伝わる。
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山頂からの展望、豊後水道の先は四国
いくつかのルートのうち、ポピュラーな佐伯市中野河内(なかのかわうち)からの往復コースを紹介しよう。
登山口の駐車場より、モウソウダケ林と照葉樹の尾根道を登ると、やがてヒノキの植林地となり、約1時間で、「下の地蔵」。
左の尾根の斜面を登り、稜線(りょうせん)へ出て、林道を越え、右へ50メートル程歩き、山道を進むと「中の地蔵」。
登りと平らを、3度ほど繰り返すと1等三角点のある元越山の頂だ。
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登山ルートにある「下の地蔵」
コンクリート柱、祠(ほこら)、独歩の碑文もある。眺望は360度。
東は、豊後水道で日豊海岸国定公園の島々と遠くに四国、北から西にかけては、由布岳(ゆふだけ)、鶴見岳、くじゅう連山、祖母傾(そぼかたむき)山群、大崩山(おおくえやま)、南には大分、宮崎県境の山々が望める。
素晴らしい眺望を楽しんだら、往路を引き返す。
(全九州アルパインガイドクラブ 安東桂三)
【ガイドの目】
◎水分補給を忘れずに
登山口には、地元の協力で駐車場やトイレがあり、竹のつえも用意してある。この山を愛する地元の意識が伝わってくる。
登山口以外には、トイレもなく、紹介したルートには水場もない。標高が低いので、気温の高い時期は、十分な給水を考えてほしい。
このルート以外にも、浦代浦(うらじろうら)、色利浦(いろりうら)、空の地蔵から石槌山(いしづちさん)経由の縦走コースもある。どのルートも夏は、熱中症に注意が必要。
佐伯市内には国木田独歩の下宿が資料館となって公開されている。
帰途立ち寄ってはいかが。
▽参考タイム
中野河内登山口(1時間)下の地蔵(25分)中の地蔵(30分)元越山(25分)中の地蔵(20分)下の地蔵(45分)中野河内登山口