多くの登山者から山の必携品だと思われているけれど、実は必携ではないのだよ、という装備がいくつかある。
例えばザックカバー。
雨の日の防水対策と言えばいの一番にザックカバーを挙げる人が多いかもしれないが、私に言わせると、
「ザックカバーって、本当に使った方がいいの?」
である。
私もザックカバーは持っているし、使ったことがないわけではないのだが、基本的には使わないし、持っていかない。
理由のその1は誰しもわかっていることだと思うけれど、ザックカバーによってザックの中身が完全に防水されるわけではないことだ。
本降りの雨の中を数時間も歩けば、たとえザックカバーをしていてもザックの中身はけっこう濡れてしまう。
ザックカバーの下部には水抜き穴があるがそれでも水がたまるので、ザックの底に入れていたものなどは特に濡れやすい。
だからザックカバーを使用していようといまいと、雨の日や水に濡れる機会の多い沢登りなどでは、ザックの中でしっかりと防水対策をしておく必要があるわけで、それだったら最初からザックカバーなんて使わなくていいじゃん、となるのである。
加えて本降りの雨の中でザックカバーを使うと、ザックカバーの裏も表も例外なくびしょ濡れになり、これが乾かすのにけっこう時間がかかる。
そう思いませんか?
ザックカバーを使用していなければ、山小屋等に着いてからザックだけ乾かせばよいが、ザックカバーを使っていたならザックとザックカバー両方を乾かさなければならない。
そして言うまでもなく、ザックカバーそのものが余分な重量でもある。
とまあ、そんな諸々の理由から私はザックカバーを使わない、持参しないことが多いのだが、
「ではザックカバーは使わない方がよいのか?」
と問われれば、正直はっきりとは答えられない。
ザックカバーを使うことで、ザックの中身及びザックそのものの濡れは、おそらく減らせるだろう。
ザックカバーを使わずにザックの中だけでしっかり防水した方がよいのか、それとも中での防水対策をきちんとした上で、かつザックカバーも併用した方がベターなのかは、さまざまな角度から検証してみる必要がありそうだ。
さて、そんな私がザックの防水をどうしているかと言えば、以前、そう5年くらい前までは、40ℓや70ℓなどの大きいビニール袋を二重(以上)にしてザックの中に入れるのを基本にしていた。
むろんその他にスタッフバッグやポリ袋なども小分け用に使い、財布や携帯、地図等はジップロックなどを利用した。
ビニール袋は厚手の方が丈夫だし防水性もよいので、むかしはスーパーで大きいビニール袋を買うのに厚さをチェックして買っていたものだ。
0.025㎜じゃなくて0.03㎜じゃなきゃだめだ、なんてね。
私が学生の頃、学習院大学の山岳部は合宿で使うビニール袋をわざわざアメ横の梱包用具専門店まで買いに行っていたものだが、今はどうしているだろうか?
最近は用具の進歩で、ザックの中で使う軽量な防水袋が複数のメーカーから発売されるようになり、私も重宝して使っている。
この防水袋の名称はメーカーによって異なるが、ここではザックの内側に入れて使う大型のものをパックライナー、衣類その他を入れる小型の防水袋をドライサックと呼ぶことにする。
ビニール袋だと1〜2度使うとどこかに穴が空いてしまい頻繁に買い替えなければならなかったが、パックライナーやドライサックは繰り返し使えるし、1枚でも完全防水である。
なかなかすぐれた製品で、私も何種類も使っているが、こちらの欠点を挙げるなら、一つは値段が高いこと、もう一つは耐久性がそこまでないことだろうか。
私の使用頻度で、1〜2年もすると水がしみるようになる。
そうなってきたら私はそれを外側に使い、もう1枚まったく同じ色違いのパックライナーを買って、それを内側で使用する、といった使い方をしている。
新品のパックライナーは1枚で完全防水かもしれないが、ある程度使用回数を重ねたら、やはり最低でも二重にして使ったほうがよいようだ。
学生時代に何度か泳ぎ主体の沢登りをした経験があるが、ビニール袋を二重にしていても中身が濡れてしまうので、最低でも三重、時には四重にしたりしたものである。
パックライナーも厚手のタイプは耐久性があるのだが、その分重さがあるので良し悪しである。
なおパックライナーを選ぶ際は、ザックの容量より少し大きめのものを選ばないとパッキングしづらくなるので注意が必要である。
また私は雨が降りそうもない日は、パックライナーは使用せずにザックの底に丸めて入れている。
パックライナーを使わない方がパッキングはしやすいからだ。
パックライナーもその方が長持ちするのではないだろうか?
また最近はザックの雨ぶたの中にも小さめのドライサックを入れて、その中に小間物を入れている。
小雨程度ならそのままでも大丈夫だし、本格的に降り出したら、そのドライサックごとザック本体の中にしまう。
そんなときに留意したいのは、ザック本体からの中身の出し入れをできるだけしないですむようにしておくことだ。
雨の中でザックを開ける回数が多ければ、それだけ中身を雨に晒してしまうことになる。
休憩時に使う頻度の高い水と食べ物、地図などは、だからザック本体にしまいこまずに雨ぶたに入れておく。
地図とコンパスは新しいジップロックに入れてしっかり閉じておけば、雨ぶたや雨具のポケットに入れていても濡れることはない。
雨の日に持ち物を濡らさないためには、しっかりした防水対策に加え、ザックの開閉そのものを少なくするといった心配りもまた必要なのである。
著者:松原尚之