前回のザックの防水の話に続いて、今月は自分の防水、すなわち雨の中歩いていかに濡れないようにするか、という話をしたい。
▼ 前回の記事
ザックの防水、私の流儀 〜濡れないこと、濡らさないこと その1〜
自分が濡れないために大事なのは、そう、言うまでもなく雨具である。
防水透湿性のよい雨具で、かつボロくないもの。
防水透湿素材の雨具はすぐれた製品だが、ある程度使い込むと防水性(正確には撥水性)が落ちてくるのが悩みの種である。
毎年買い替えていればよいだろうが、さすがにそうもいくまい。
けれども、実はメンテナンスをきちんとすることで、なくなった撥水性をかなり蘇らせることができる。ここで詳しく述べるほどの紙数はないが、簡単に記せば、
- 雨具の汚れを落とす
- 専用の撥水液をかける
- アイロンやドライヤーなどで熱を加える
という三段階の工程となる。
特に3の熱を加えるというのがみそで、撥水液を使わなくとも、雨具を洗い、アイロンを当てるだけでも撥水性はある程度回復するという。
インターネットなどで情報は得られるので、やられたことのない方はぜひ一度試してみていただきたい。
濡れないためにはよい雨具を使うことが大切だが、むろんそれだけではまだ不十分である。
汗をだらだらかきながら歩けば、どんなに透湿性のよい雨具を着ていても衣類を湿らせてしまう。
できるだけ汗の量を減らすべく、雨具の中で着用する衣類を調節する。
とはいえ、暑い夏の季節はTシャツ1枚しか中に着ていなくても雨具を着て歩くのは暑くてたまらないものである。
ある程度は我慢するしかないのだが、それでも汗をかくにまかせるのではなく、雨具の前を開けるとか、フードを外してみるとか、場合によっては雨具を脱いで肩から羽織って歩くとか、雨の強弱に応じてさまざまな努力を試みるべきである。
暑いし、雨も小降りになってきたのに、レインのファスナーをしっかりと上まで閉め、フードをかぶったまま歩き続けている登山者はとても多い。
また、帽子は雨の際にも有効である。
帽子をかぶっていれば雨具のフードを外しても頭の濡れが少なくなるし、それだけでなく帽子のつばがフードが顔に垂れ下がるのを防いでくれる。
雨が強い時は袖口からの濡れにも注意を払う必要がある。
雨具の中に着ていた長袖シャツの前腕部分が濡れてしまった経験はないだろうか?
濡らさないためには、雨具の袖のストラップをしっかりと締めること、さらには長袖シャツなら袖をまくっておくことだ。
次にレインパンツ。
すそのドローコードを締め、レインパンツのすそをしぼって歩く人を見かけるが、私はすそはしぼらないほうがよいと思う。
しぼったすそが靴にかぶさっているうちはよいのだが、歩いていてすそが靴から外れてしまったとき、すそをしぼっていると再び靴にかぶさりにくくなるからだ。
雨の日にスパッツを使うかどうかは好みでよいが、スパッツはレインパンツの上からでなく、レインパンツの下につける方がよい。その方が靴に雨が入りにくいし、足も動かしやすいからだ。
また、レインパンツを脱ぐ際にも、スパッツをいじらなくてすむ。
ところでが、外でレインパンツを脱ぎ履きするとき、パンツのすそのファスナーを開け、登山靴を履いたままレインパンツを履こうとして苦労している人をよく見かける。靴の上にポリ袋をかぶせてレインパンツを履くという裏技は悪くはないが
そんなことをしなくても一度靴を脱いでレインパンツを着脱した方がよほど簡単に思えるのだがいかがだろう?
私はほとんどの場合そうしている。
さて、無雪期の山ではタイツを使う人と使わない人がいて、私はこれまで実は使わない人だったのだが、レインパンツとの相性という点では、長ズボンよりタイツの方が断然よさそうに想像できる。
足も動かしやすそうだし、濡れたときも乾きやすそうだし、涼しそうだし……。私もこの夏はタイツデビュー(遅いなあ……)してみる予定なので、レインパンツとの相性もぜひ確かめてみたいと思っている。
トレッキングシューズだが、これはやはり防水透湿素材を使った防水性のよい靴を選ぶべきである。
トレランでは蒸れにくさや乾きやすさ、耐久性などの観点から、あえて防水透湿素材を使っていないシューズが主流で使われているようだが、一般の登山ならば防水性はあった方がよい。
雨に日に靴の中がびしょ濡れになるか乾いているかでは全然違う。
雨用の手袋についても触れておこう。
レイングローブとして売られているものはどうも防水性に難ありの気がして私は使っていない(いや、本当はすぐれた製品もあるのかもしれないが)。
最近私が雨用として使っているは2種類で、一つはポリエチレン製の極薄手袋。
食品を扱うときや白髪染めの際などに使用される使い捨て手袋である。
雨のときにこれを直に手にはめて歩いてもよいし、インナー手袋などの上からかぶせて使ってもよい。
もちろん蒸れるし、すそから多少濡れるが、手も暖かいし、インナー手袋がびしょ濡れになることもない。
また、最近登山者の間でも使う人が増えてきたのが、ホームセンターなどで売られている“透湿性のあるゴム手袋”である。
寒冷地用には中にボアがついたタイプも売られているが、私はボアなしのものを雨用グローブとして今シーズンから使用している。
もっとも、雨が降っていても手の冷たさが我慢できるなら、無理に手袋をはめる必要はない。
それが一番手袋を濡らさずにすむからだ。
最後にもう一つ。
外にいるときだけでなく、山小屋やテントの中でも、濡れには気をつけなければならない。
7月に富士山に登った際、七合目の山小屋に上がった初日は雨だった。
山小屋で靴を脱ぎ、私はさらに靴下も脱いでポケットにしまってから中に上がった。
小屋の床の上が一部濡れていたからだが、わざわざ裸足になって小屋に上がった登山者は私だけだった。
テントにいる場合、山小屋よりも靴下や衣類を濡らす要素が多いことは容易に想像がつくはずだ。
山小屋やテントの中で靴下を濡らさないように気を遣う……。
そんな些細なことが、雪山や長期山行のように登山のレベルが上がるほど、実は大切になってくるのである。
著者:松原尚之