雪山の安全のためにもう一度


一年間にわたり、「安全に山に登るためには」というテーマで当コラムに文章を書かせていただいたが、最終回となる今回、これまで書いてきた大事な点を、特に雪山にまとをしぼっておさらいしようと思う。

1.行き先選びを間違えぬこと

自分の実力に見合った山なのかを正しく見極めることはむろん大切だが、雪山ではそれだけでは不十分である。

硫黄岳や蓼科山、唐松岳八方尾根など、初級者向きと言われる山でも、天気が悪いとルートファインディングがひじょうに難しくなる雪山は少なくない。

その山・その山頂から、たとえ悪天候となり視界がなくなっても確実に下りてこられるのか、そして今回の天気は大丈夫なのか、ということを出発前によく考えなければならない。

バリエーションルートを登攀したあとの下降路もしかりで、吹雪の中でその下降路は本当に大丈夫なのか?(たとえバリエーションルートであったとしても、同ルートを下降した方が安全な場合がある)ということも、バリエーションを志す人はよくよく頭に入れておいてほしい。

冬の木曽駒山頂

2.十分な下調べをする

行く山が決まったら、よく下調べをすることが安全に登るためにひじょうに重要である。

ネットなどを活用し、必ず複数の情報を得て、ルートについて十分得心し、自信を持った上で出かけなければならない。

地図上でもルートをなぞり、主な地点には標高などを書き込んでおこう。

剱岳を代表するバリエーション・八ツ峰(5月連休)

3.冬山の天気を知る

雪山では無雪期の山以上に、天気の良し悪しが安全を大きく左右する。

登山者は冬の天気をよく知り、この気圧配置のときには自分のいく山がどのような天候になるかといった判断ができるようにする必要がある。

まずは冬の気象サイクルを知り、次に冬型気圧配置について知る。

冬型のとき剱や立山はどんな天候になるのか、八ヶ岳や南アルプスはどんな天候になるのか……?

この冬型は強いのか、弱いのか、しばらく続くのか……? 等々。

冬型の強さの度合いを知るためには、「週間寒気予報」や「ヤマテン」などのサイトで寒気の強さをチェックすることが役に立つ。

加えて、3つの低気圧(南岸、日本海、二つ玉)の種類と性格を把握しておきたい。

ぜひ『山岳気象大全』(猪熊隆之著)などを読んで、勉強しよう。

蔵王のスノーモンスター

4.雪崩の危険を判断する

まずは地形、地域、標高などから、自分の行く場所が雪崩のリスクの高いコースなのかそうでないのかを判断する。

ルートは谷沿いを通るのか、ずっと尾根通しなのか? 尾根通しだとしても、途中で沢状の地形の通過や、大きな斜面の通過はないのか?

地形の次は天候、特に行くまでの天候をチェックする。入山の直前にまとまった降雪があったかどうか?

もしまとまった降雪があった直後なら、たとえ入山日(行動日)が快晴であったとしても、登山は見合わせた方がよい場合が少なくない。

南岸低気圧の通過などでどかっと雪が降った翌日には、たとえどのようなルートであれ、八ヶ岳や南アルプスなどに安易に入ってはいけないのである。

雨が降っている時や降った直後も雪崩の危険日だと認識しておこう。

また、雨が降った後に気温が下がって雪に変わり、そしてある程度積もった時などは、雪崩の最大危険日の一つだと思ってまちがいない。

春から5月連休にかけてはそのような天気状況になることは珍しくないから、よくよく注意しておきたい。

冬富士

5.装備、ウエアをしっかり用意する

適切な装備とウエアをしっかりそろえ、決して忘れ物をしないこと。

雪山に入山したら、手袋や靴下やウエアなどを安易に濡らさないように注意することもとても大切である。

地図、コンパス、GPSといったナビゲーションのための道具、ツェルトやスコップ、クッカーセットといった万一のビバーグに備えるための装備、スマートフォン(やその充電池)、あるいは無線機や衛星電話といった非常時の連絡のための道具などもきちんと考えておきたい。

ネパールの6千m峰にて

6.その他

安全登山のためには登山計画書の提出、山岳保険(共済)への加入も必須である。

遭難したくなければ、計画書と保険は必ずきちんとしておこう。

登山計画書の提出には当コンパスもとても便利であり、私も一人でトレーニングに出かけるときなどに利用している。

遭難者捜索のための電波発信機ヒトココも、特に一人で山に入ることの多い方にはぜひ今後携行してほしいグッズの一つである。

登山の安全のために必要なこと、大切なことはまだまだたくさんあるだろう。

私の拙い連載が、少しでも登山者の安全に資するものであったとしたらうれしい。

次に入山する山も、その次も、決して油断することなく、万全の準備の上でのぞんでほしい。

私もこれまで以上に安全に留意して山を続け、これを読んでくださったみなさんと山でお会いできれば、と願っている。

著者:松原尚之

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