当サイトで登山の安全について文章を書かせてもらっていて言うのもなんなのだが、山の事故を減らすのは本当に難しいとつくづく思う。
なにしろ登山における危険因子は多岐に渡るし、山の自然は千変万化、登山者の力量だって十人十色だ。
それに人間というものは、そもそも、常に万全の準備をしたり、高い集中力を保ち続けられるようにはできていない。
(まあだからこそ、常に万全の準備がなされていなくても、また集中力が途切れることがあっても、事故を起こさないだけの計画のゆとりが大切なわけであるが)。
けれども実は一つだけ、誰にでもできて簡単に山の遭難を減らす方法がある。
それは山岳保険(や山岳共済)に入ることと、登山届けを必ず出すことだ。
本当にそれだけで事故が減るの?
と言う人もいるかもしれないが、統計を見たわけではないけれど、計画書を出していた登山者より、出していなかった登山者の方が事故を起こす確率が高いという話を警察関係者の方からうかがったことがある。
山岳保険・共済もまたしかり。
あまり大きな声では言いたくないのだが、自分の過去の登山や山岳ガイド業務を振り返ってみても、それは事実としてあった気がする。
むろん今私は、常に自分と顧客に山岳保険を掛けているし、登山計画書も提出して山に入っている。
こと山にかぎらず、「保険に入っていないときにかぎって事故に遭う」、「〜を忘れたときにかぎってそれが必要になる」といった経験は、誰しも人生で一度や二度は思い当たる節があるのではないだろうか?
登山届や保険の手当てをしておかなければ事故に遭いやすくなる。
であるならば、登山届けや保険をちゃんとしておけば事故に遭う可能性は減る。
私はそれを信じている。
岐阜県警が一部山岳の入山時に登山届提出を義務化するなど、ここにきて登山届けの重要性がいっそうクローズアップされている。
それはとりもなおさず、2014年9月に起きた御嶽山噴火による大事故とそれにともなう行方不明者捜索の困難さの影響が大きいわけだが、そうした“捜す側”の利便性のためだけでなく、“登る側”の安全自体に関わるものとしても、登山届けは注目されてきていると筆者は感じる。
ご存知の通り、当サイトコンパスは登山届けの作成・共有を主要コンテンツとしているし、この4月からは、コンパス同様、登山届けの作成・提出が簡便にできることをうたった山のポータルサイト「サンガク」もはじまった。
また、山岳共済制度と登山届け提出をリンクさせ、登山計画書作成通知を出せば給付対象が拡大するという「やまきふ共済会」なども利用者を広げている。
ところで、ここにこんな文章を載せている私は、実は何を隠そう、これまでコンパスのシステムを使って登山届けを出したことがなかった!
私の場合、自分の書式で登山計画書をつくり、長野県警などにはそれをメールの添付ファイルで事前に送る。
警察が添付ファイルを受け付けていないエリアでは持参した計画書を登山口でポストに入れる、というやり方でこれまで計画書を提出していた。
自分で計画書をつくるので、長野県警のように添付ファイルで送ることができれば簡単なのだが、コンパスのように改めて項目を打ち込む必要があるものは、二度手間となるからめんどうに感じられたのだ。
しかし、今回は記事の内容が内容だけに、ここは一念発起して(というほど大げさなものではないが)、コンパスでの登山届け提出にトライしてみた。
そして実際にとりかかると……。
必要な記入項目もそこそこ多いし、「どう書いたらいいのだろう……?」と迷うようなところもあり、やっぱりメンドウクサイ!
が、そこで投げ出さずにとりあえず最後まで仕上げて、送信。
送れた(笑)。
と、そうして1回やってみたら、意外に簡単であることがわかった。
なので、続けてもう1通、別の山行の計画書を作ってまた送る。
要領がわかれば、簡単なものである。
要は初めて利用するときの決して高くはないハードルさえ越えれば、あとは容易であるということだ。
使ってみてよかった(笑)。
何よりこのシステム、下山届けを出さないと本人や登録した緊急時連絡先に自動的に繰り返し連絡が行くという点が画期的である。
下山届けはスマホなどから簡単に出せるので、めんどうくささはおそらく感じないだろう。
かりにスマホなどがバッテリー切れなどで使用できなくとも、それに対処するシステムなども用意されている。
私は今後、これまで通り自分で計画書を作ってそれを提出する一方、コンパスでも登山届けを出そうと思う。
安心は二重三重であるに越したことはない。
著者:松原尚之