安全に山に登るためには?(5)~道迷いをしないために~


事前の準備は何をする?

転倒・滑落とならび、遭難原因の中で常に大きなパーセンテージを占めるものに道迷いがある。

道迷い遭難にまで至らなくても、道に迷った経験、道を間違えた経験、現在位置がわからなくなった経験等々は、長く登山をしているものならば、持たない人などいないのではないだろうか?

もちろん私にもそういった経験は、そう、数え切れないくらいある。

それでは道迷いを防ぐには、あるいは、道迷いをしても遭難にまで至らないためには、どうしたらよいだろうか?

この連載の1回目「山行前のチェックシート」でも書いたけれど、それにはやはり“山行前の備え”が何より大切である。

山に入ってからではなく、家での準備が。

では、どんな準備をしたらよいだろうか?

まず、当然ながら行く山の地図とコンパスを用意する。

そして、ガイドブックやネットなどから行く山とコースの情報を十分に集め、下調べをする。

ネットなどの記録は一つではなく複数に目を通す。

もちろん新しい記録であるに越したことはない。

地図は登山地図だけでなく、国土地理院製の地図(地形図)を用意する。

用意するだけでなく、国土地理院の地図上に自分の歩くコースを蛍光ペンなどでなぞり、登山口、山頂、山小屋、その他、要所となる地点には標高を記載する。

このように自分の行くコースの標高差を大雑把にでも把握しておくことは、登山地図などに記された「コースタイム」だけに頼らず、みずから所要時間を予測するためにもとても重要なことである。

そして歩くルートを地図上で目で追い、急峻なところや、迷いそうなところなどがあれば、留意しておく。

ネットの記録などから何か情報があれば、遠慮なく地図上に書き込んでしまおう。

登山では長らく国土地理院の25,000分の1地形図を使うのが一般的とされてきたが、最近では国土地理院の地形図もネット上から容易にプリントアウトすることができる。

やり方を覚えれば縮尺を指定して印刷することも可能である。

25000分の1地形図

地図の見やすさも地形の把握しやすさも、12,500分の1は25,000分の1のそれより明らかに勝っており、ぜひこれを読まれた登山者の方々にも、12,500分の1クラスの縮尺の地図を使ってみられることをぜひお勧めしたい。

12500分の1地形図

25,000分の1の地図を使う時代はすでに終わっているのかもしれない。

12500分の1地形図と25000分の1地形図を並べて比較したもの

さて、そうして地図を用意してルートの予習をし、ネットなどの記録にもよく目を通すなどの準備をしておけば、それだけで道迷いを起こす可能性はぐんと低くなるはずである。

私はその上でさらにGPSを携行する。

GPSは専用機でもよいし、スマートフォンのアプリでもよいだろう。

スマートフォンのGPSアプリは事前に地図を入れておけば電波が圏外でも地図を表示し、現在位置を教えてくれる。

アイフォーンのフィールドアクセス画面

先に述べたような準備をした上で、さらにGPSをバックアップとして持つならば、かなり高い安心を得られることだろう。

ただし、間違ってもGPSだけに頼り、紙の地図を用意しないなどということはしてはならない。

そして一人でなく複数のメンバーで山に行く時は、すべての参加者が同じような準備をし、全員が地図とコンパスを持参することも大切である。

そんなこと当たり前だと言われるかもしれないが、例えば夫婦で山に行く場合ならどうだろう?

ちゃんと地図とコンパスを2人とも持つだろうか?

私がかつて捜索にも携わった山梨県のとある低山の遭難事故では、夫が途中で先行して山頂に行き、あとから同じ道をたどった妻の方が途中で魔がさしたように登山道とはちがう踏み跡に迷い込んで遭難し、結局亡くなられてしまった。

私も何度か歩いたことのある、遭難など起こりそうもないふつうの一般登山道でのことだった。

このとき、遭難した妻の方は地図もコンパスも持っていなかったが、ご夫婦であれば、決して珍しいことではないだろうな、とそのとき私も思った。

それ以来私は、たとえ夫婦であろうとも地図とコンパスなどは必ず全員持ちましょうと指導している。

もちろん地図とコンパスなど装備の問題だけではなく、“安易にパーティーを分けることは、それだけでリスクを生む”ということも、山の常識としてあわせて覚えておいてもらいたい。

次回は、山で実際に道に迷ったらどうするか、というテーマで書くことにする。

著者:松原尚之

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